アダルトリソーシス方針の導入について       戻る

わが国のスカウト運動は、創立以来、70余年を経てきていますが、多くの先哲の涙ぐましい情熱と知力により今日まで受け継がれています。

 一方、日本の社会は戦後50余年の中で高度成長の歩みを体験し、経済的な復興から「富める国」へと成長してきています。更に、日本のみならず、地球上のあらゆる分野では、先進工業国を中心に技術革新が急速に進展し、過去の人類の歴史上、例を見ない程に文明の進展を果たした世紀はなく、激しく変化した100年でありました。

 このような社会、経済、政治、文化、環境などのあらゆる分野での急激な変化の中でスカウト運動も、1907年の創始以来、周辺環境の変化と共に、基本的な理念や目的は堅持しつつも、それぞれの時代に対応した青少年教育を展開してきています。
 世界的には、1924年のコペンハーゲンでの国際会議での宣言により、世界的な青少年教育運動へと成長しました。

 また、スカウト運動の単一性と柔軟性という視点で捉えると、国際(International)から世界(World)へと名称を改めたことにより、スカウト運動の目的・原理・方法(世界スカウト機構規約参照:WOSM)を単一性の基本としつつ、各国スカウト組織(NSO)と国情をスカウト運動の進展に応じて、各国に対応できる柔軟性を保持してきています。

 従って、世界スカウト運動は3年に1回開催される世界スカウト会議を加盟各国の最高意志統治機関として位置づけ、今日まで35回の会議を開催し、様々な決議の採択を行い加盟各国での適切な対応を促してきています。

 21世紀の開幕を間近にした1988年の世界スカウト会議では、世界訓練小委員会がこの運動に関与する成人の在り方、また、伝統的な訓練方式への再検討、更には組織と硬直化とマンネリ化、人材の活発な活用ができていないなどの内容を主とした勧告を提起し、21世紀を担う青少年教育として進展するための抜本的な改革を提言し、自ら訓練小委員会の発展的解消を提案しました。

 これ受けて、1990年には「スカウティングにおける成人」を採択し、1993年に「2002年に向けてのスカウティングの世界戦略」を決議し、各国連盟が10年間にわたり努力していくことを決議しました。

 これにより、アダルトリソーシス方針が世界の成人に関する方針として決定し、連盟各国が青少年プログラムの適切な開発と併せて、この運動の主体である青少年を支援する成人の関与をより的確に対応できるように、意識改革と人材開発、人材管理、適材適所に関する成人の関与のあの方を各国(NSO)の実情に合わせて、積極的に、果敢に推進していくこととなりました。

 このことは、成人の人選、リクルート(募集)、関与することの制約(契約)、訓練、実績評価、認定、更新、任務変更、退任などの一連のスカウティング運動に関する成人のライフサイクルを明確にしたものですが、見方を変えれば、企業における人材管理、開発、教育訓練、人事考査と同様な視点を持っています。
 このことにより、ボランティアを中心とする青少年教育運動体であっても、わが国のNPO法制定にみられるように、運動体として的確に目的・理念を遂行していくためには、「経営」の手法を導入し、経営資源(人・もの・金・情報など)を有効に活用していくことが、必須の条件となってきています。

従って、この運動を構成する主体は青少年であり、世界プログラム方針にあるように、「青少年による。青少年のための、青少年の運動」であることを確認しつつ、その成長に積極的に関与する成人の在り方を明確にしたのが「アダルトリソーシス方針」です。
 

日本連盟は、1998年に世界会議の決定を受けて、わが国のスカウト運動にこの方針を導入することを決定し、1999年3月には、指導者養成委員会の提言を中央審議会で審議・承認し、具体的な推進を行うこととなり、1999年5月より指導者養成委員会からアダルトリソーシス委員会へと改組して、この方針の推進を行うことになりました。
 

日本のスカウト運動は、先述の通り、長い歴史と伝統を保持し、多くの先哲の限りない人力により今日まで営々と維持されてきていますが、世界のスカウト運動の単一性を再認識し、より的確にこの目的・原理・方法を推進していくためには、この運動に関与する成人(指導者)についての適切な対応を行うことが必要となります。


 従来は、ボランティアとしての自己犠牲の範疇に止まっていたものが、国内的にも「ボランティア」の定義が変化し、ボランティアであることの自己責任やボランティアとしての在り方の意識改革が進展してきており、様々な社会的な貢献は自己の人生観をより充実したものにし、充実した人生を送る大きな要因となることが認識されています。

 スカウト運動に関与する成人も、また、青少年の成長に貢献することの満足感と同時に一人ひとりの成人にとっても、スカウト運動に関与することで、自己の人生観をより充実したものにし、成人のライフサイクル(人生設計)として、充実感を向上するなどの「生涯学習」の機会であることが明確となってきております。

 従って、今日までの日本のスカウト運動に関与する成人の在り方を抜本的に変革することが、アダルトリソーシス方針の推進であるとの認識ではなく、第1にスカウト運動の本旨を再認識し、その目的・原理・方法をより青少年に適切に提供するために、適切な成人をどのように獲得し、その成人一人ひとりに必要な訓練をどのように提供し、成人にとってもこの運動に関与することによる成人としての個人的な発達が達成できるのか、また適材適所に配置され、組織と個々の成人としての合意と果たすべき役割を明確にして、その実績を自己評価を含め、結果の確認を的確に行うことで、次へのステップへとつなげていくことが主眼となります。

 このため、各種の成人の役割を明確にするとともに、役割に応じた人材を確保する(外部の人も含めて)こと、役割に対してその役割を遂行していく自己責任を相互に確認すること。役割を遂行していくための訓練が提供されること、などが必要となります。

 以上のことから、21世紀を目前にして、日本のスカウト運動に参加している青少年が、次世紀で主体的な役割を担うことができるよう、ノン・フォーマル教育の体系であるスカウト運動に関与する成人一人ひとりの認識を新たなものとして、何よりも青少年と接する隊の指導者が自信と勇気と情熱を持ってスカウト運動に取り組まれるよう「人」に関わる環境の整備が必要となると考えられます。

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